COLUMN
企画から運営まで見すえた
インテリアデザイン(第3話)
富士マリオットホテル山中湖 と
あしのこ茶屋
INTERVIEW
牧尾
改修を手がけられた『富士マリオットホテル山中湖』についてお聞かせください。先ほどお話をうかがった東京のホテルとは、立地条件がかなり違いますね。
菓子
そうですね、こちらは森のリゾートで、外の自然の景色が素晴らしいです。改修だったんですが、元々の建物の窓も大きくて。ですから、閉じた空間でつくりこむよりも、外の空間をメインにもってくるイメージでしたね。それから、温泉に入れるというのも大きな魅力です。風景もふくめて土地の空気に癒されてリラックスしていただく空間を、引き算のデザインでつくっていきました。
富士山の近くで、また、マリオットホテルの会員のお客さまもふくめ海外からのインバウンドのお客さまが多いホテルです。日本をある程度ご存じの方も多いので、山中湖というこの土地ならではの表情を切り口にしました。
牧尾
具体的なデザインとしてはどのように?
菓子
「晴雲秋月」という言葉がありますが、山中湖に富士山が綺麗に映り込んでいて、光や風の加減で風景がすこしずつゆらいだりする。そんな風景を想いながら、たとえばアクリルで水面を表現したり、山中湖周辺の環境を反映させた色合いの和紙をアートウォールとして壁一面でみせたりしています。
牧尾
同じく郊外の立地で、『あしのこ茶屋』の改修についてうかがいます。芦ノ湖のほとり、箱根海賊船の乗り場すぐ近くで、箱根神社へつづく参道入口という立地です。
菓子
歴史深い場所にあるお茶屋さんで、1階は土産物、2階がお食事処、という建物の改修でした。インバウンドの観光客も4割くらいいらっしゃいますが、日本の箱根リピーターの方々も大事にしたいという前提条件がありました。ですから、あまり突飛なこともできませんし、でもリニューアル感は出したい、という悩ましさもありましたね。
牧尾
ファサードには鳥居をモチーフにしたパーゴラもあり、思わず入りたくなる雰囲気ですね。
菓子
ありがとうございます。自然公園内で外観の規制も厳しい地域なので、塗装色や広告サインなど、じつはいろいろな工夫をしています。
商業施設としてはなるべくたくさん賑わいをつくりたいところです。朱色は使えないとなっているのですが、高さによって、あるいは取り外せればOK、といった特例があります。また、看板かどうか、あるいは照明か、といった条件で、同じ色でも使えたり使えなかったりします。わりとサッパリとつくっているように見える部分でも(笑)、じつはいろいろなルールに沿って検討しているんです。
観光地だと、店内が暗くてガラス張りのわりに入りにくい建物も多いです。そこで、あしのこ茶屋のインテリアでは、鳥居に揃えたメインカラーの飴色を奥の壁にも使って、なるべく入りたくなるようなビジュアルの仕かけをつくっています。
牧尾
デザインのお仕事を通じて、これからどんな空間をつくっていきたいですか?
菓子
機能だけじゃなくて、子ども、ママ、お年寄りなどいろいろなひとにとって快適な、やさしいデザインをしていきたいですね。女性デザイナーも多くなって、デザインする側も多様になってきています。そしてそういったデザインを、たとえば女性だからピンクといった固定概念による決めつけではなく、ちゃんとかっこいいデザインでつくりたいです。いい物は誰に対してもいいというスタンスで、どう運用していくかもふくめてデザインしていきたいですね。
PROFILE
インテリアデザイナー(UDS株式会社)菓子麻奈美さん
1983年生まれ、東京都出身。東京芸術大学大学院美術研究科建築専攻修了。長谷川逸子・建築計画工房にて建築設計の仕事に携わり、中国無錫の大規模開発プロジェクトの高級ヴィラ、商業施設、ランドスケープなどを手がける。2011年より、株式会社都市デザインシステム(現UDS株式会社)にて、ホテル・オフィス・店舗のインテリアや、家具のデザイン、ブランディング、VI計画と企画から設計までさまざまな角度からプロジェクトに携っている。
(プロフィールは記事掲載時(2018年11月)のものです)
聞き手
牧尾晴喜
株式会社フレーズクレーズ 代表
一級建築士、博士(工学)
メルボルン工科大学大学院修了、メルボルン大学にて客員研究員
大阪市立大学非常勤講師、摂南大学非常勤講師
公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会理事