COLUMN

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Interview04 サンゲツヴォーヌ×空間デザイナー(株式会社丹青社)町田怜子さん

ひとのこころを動かすインテリア(第2話)

渋谷ヒカリエ ShinQsの
スイッチルーム

INTERVIEW

牧尾


渋谷ヒカリエ ShinQsのスイッチルームについてうかがいます。
6つのフロアごとに異なるテーマで構成された、これまでにないレストルーム(お手洗い)ですね。空間デザインだけでなく、家具やサイン、さらにはキャラクターなども手がけられたということですが、大変ではなかったですか?

町田

それが、実はとてもスムーズに進みました。同じくらいの年代の女性メンバーでデザインのチームを組んだのですが、それがちょうどターゲット層とも合っていました。クライアント側のチームもメインの方々は同年代だったので、コンセプトの共有もスムーズにできました。
企画段階から入らせていただき、デザインの手法としては、趣味や年齢・職業なども設定した明確なキャラクターをフロアごとに最初につくったうえで、そのキャラクターにあわせて具体的な空間にしました。他人事ではなく、「自分事」としてアイデアを出し、各フロアごとにアロマを選び、音楽もデザインコンセプトに合わせて作曲してもらいました。全部のフロアをたどるとひとつのストーリーになっていて、このキャラクターがいるかもしれない、あるいは「いるのが当然」と感じられる空間にしました。商業施設は不特定多数のお客さまが相手なのが難しいところですが、スイッチルームではキャラクターの生活スタイルを想定して具体化しました。
ちなみに、壁紙クロスやソファのファブリックなど、サンゲツさんのものを使わせてもらっているところがありますね。

Interview04 サンゲツヴォーヌ×空間デザイナー(株式会社丹青社)町田怜子さん
Photo:ピップス
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牧尾

それはありがとうございます!
次に、空間が完成してからのことを聞かせてください。オフィスなどと違って、こういう商業施設だと、オープンしてから実際に使用されている雰囲気を見られることも多いと思います。デザインから竣工までとは、また違った手ごたえがあるのでは?

町田

そうですね、私も渋谷ヒカリエ ShinQsをよく利用していますので、お客さまがどんな風に利用されているかを見せていただくことがあります。このスイッチルームでは、従来のトイレにはなかったような仕掛けを用意しているので、それを使っている姿を見ると嬉しいです。
たとえば、細かい話ですが、女性用トイレではブースの数を増やして充実させても、どうしても列ができてしまうことがあります。そこで、並ぶ場所に鏡を設置してお化粧直しができるようにしました。それにより、並ぶことのストレスが軽減され、時間も節約できます。
また、ベビー休憩室だったら壁やベビーベッドに目盛りをつけました。子どもの身長が測れ、何度も来てお子さまの成長を楽しんでもらえると嬉しいですね。

Photo:ピップス
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牧尾

壁に描かれた街の風景の絵(チョークアート)のなかで、ShinQsにちなんだアルファベットの「Q」の文字を探す、なんていう遊び心もありますね(笑)。

町田

気づいていただきありがとうございます。あの絵も、実は私が描かせてもらいました。他にも時計の時刻をクライアントの東急グループさまにちなんで「10時9分」(とう・きゅう)にしていたり(笑)。楽しみながら現場に関わることができました。

牧尾

このスイッチルームはメディアでも多く取り上げられ、キッズデザイン賞をはじめに多くの賞にも輝きましたね。

町田

そうですね、とても嬉しいです。
今は再開発もあって見直されましたが、以前の渋谷にはアメニティやホスピタリティの視点が充分ではないと言われていました。特に駅前や駅まわりには、ベビーカーで入れる場所がほとんどありませんでした。多くの人の力で完成したこの施設が、人の流れが変わり始めるきっかけのひとつになれたのでは、と感じています。ベビーカーを押している女性たちが、ここを拠点にして渋谷の街をめぐるようになってくれたらいいですね。

Photo:ピップス
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Photo:ピップス
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町田怜子さん

PROFILE

空間デザイナー(株式会社丹青社)町田怜子さん

東京都出身。明治大学大学院理工学研究科建築学専攻修了の後、株式会社丹青社入社。同社デザインセンター コミュニケーションデザイン局にてクリエイティブディレクターとして活躍中。
にぎわう商業空間づくり、心地よいオフィス空間づくりなど、多岐にわたる分野での経験を積む。
女性ならではの感性と持ち前のコミュニケーション力を活かし、異分野のクリエイターとのコラボレーションに積極的に参画するほか、デザイナー同士の交流の場づくりにも取り組んでいる。本コラムで紹介している以外にも、「銀座文明堂東銀座店」、「日本赤十字有楽町献血ルーム」、「コニカミノルタ浜松町ショールーム」など、多くのプロジェクトを手がけている。「JCD design award 2010銀賞」、「ディスプレイ産業賞2012特別賞」をはじめ、受賞多数。
(プロフィールは記事掲載時(2018年5月)のものです)

聞き手

牧尾晴喜

株式会社フレーズクレーズ 代表
一級建築士、博士(工学)
メルボルン工科大学大学院修了、メルボルン大学にて客員研究員
大阪市立大学非常勤講師、摂南大学非常勤講師
公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会理事