COLUMN
ひとのこころを動かすインテリア(第3話)
コールセンターでの
新たなデザイン手法
INTERVIEW
牧尾
つづいて「プライムアシスタンス 鹿児島コンタクトセンター」についてお聞きします。他のコールセンターとは、デザイン上でどういった違いがありますか?
町田
一般的にコールセンターというと閉鎖的なものが多かったのですが、やはりこうしたサービスの主役はコミュニケーターの方々ですから、来訪者にしっかりと見えるようにデザインしました。エントランスから入るとガラス張りのパーティション越しに、コミュニケーターの働く姿が見えるようになっています。
実は私が働く丹青社のオフィスでも移転にあわせて、外部により開かれたオフィスにリニューアルしましたが、やはりオフィスのハードが変わると働く人たちの意識も変わりますね。私たちも同じですけれど、機能を整理してあげると、書類やモノの扱い方や身だしなみまで綺麗になったり、何よりコミュニケーションの質も変わります。
コールセンターでのもうひとつの工夫は、休憩スペースをしっかりと確保して、充分くつろげるようにしていることです。休憩室は2つあり、それぞれリラックス・ヒルとリフレッシュ・ビーチとして、デザインを大きく変えています。そのときの気分にあわせて座り方も選べて使い分けができます。コールセンターには女性が多いのですが、ヒールのある靴をずっと履いていると足が疲れやすいので、広いソファで靴を脱いで足をのばせるようにしています。他にも、ハンモックでひとりになれたり、リクライニングチェアで窓辺に向かってゆったり座れたり、といろいろなリラックスとリフレッシュができるようにしました。
牧尾
仕事中と休憩時間のメリハリがしっかりとつきそうですし、自然な交流も生まれそうですね。
町田
そうですね、コールセンターでのお仕事は一人ひとりで対応するものなので、休憩スペースには、談笑できる大きなテーブルや、メッセージを書いたり写真を貼ったりして皆でつくっていく壁を設置しています。外に対してだけでなく、オフィスで働く人たちの関係性もよりオープンにしていくしかけを設けました。
牧尾
今後、デザインのお仕事を通じてしたいことは?
町田
ホスピタリティあふれる空間づくりです。枠にとらわれずに広く見据えると「ホスピタリティ」はあらゆるジャンルの空間に求められていくと思います。これまでにない新しい空間をつくりたいと言ってくださるようなお客さまと一緒にこれからも手がけていきたいです。
空間づくりを14年くらいやってきて実感していることですが、このお仕事の魅力は、空間デザインのチカラで人の心が動き、そこで過ごす時間の価値を高められることです。たとえばPanasonic Beauty SALON 銀座でもこの空間を通じての体験者が増えていますし、渋谷ヒカリエ ShinQsのスイッチルームではこれまでは機能のひとつであったトイレが人の笑顔につながる付加価値を生みだすことができました。
多くのことがインターネット上で済んでしまう時代ですが、私たちが手がけているのはリアルな空間で、そこに来て使っていただけるからこそ、空間の豊かさを感じてもらえます。私たちがデザインした空間が利用者の心の拠り所になったり、新たな気づきのきっかけとなったり。そういう空間を通じて人々の気持ちや暮らしが豊かになってくれればとても嬉しいです。
ちょっと大きな話になってしまいましたが、そういった積み重ねが社会貢献や社会問題の解決に多少なりともつながっていければいいなと考えています。
PROFILE
空間デザイナー(株式会社丹青社)町田怜子さん
東京都出身。明治大学大学院理工学研究科建築学専攻修了の後、株式会社丹青社入社。同社デザインセンター コミュニケーションデザイン局にてクリエイティブディレクターとして活躍中。
にぎわう商業空間づくり、心地よいオフィス空間づくりなど、多岐にわたる分野での経験を積む。
女性ならではの感性と持ち前のコミュニケーション力を活かし、異分野のクリエイターとのコラボレーションに積極的に参画するほか、デザイナー同士の交流の場づくりにも取り組んでいる。本コラムで紹介している以外にも、「銀座文明堂東銀座店」、「日本赤十字有楽町献血ルーム」、「コニカミノルタ浜松町ショールーム」など、多くのプロジェクトを手がけている。「JCD design award 2010銀賞」、「ディスプレイ産業賞2012特別賞」をはじめ、受賞多数。
(プロフィールは記事掲載時(2018年5月)のものです)
聞き手
牧尾晴喜
株式会社フレーズクレーズ 代表
一級建築士、博士(工学)
メルボルン工科大学大学院修了、メルボルン大学にて客員研究員
大阪市立大学非常勤講師、摂南大学非常勤講師
公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会理事